「明日は書道道具忘れないようにしなくちゃ。」
「お母さん、手に書いておいて。二つ書いてね。」
私は次男の手の甲に「しょどう」とひらがなで書いた。
二つ書く必要があるのか分からないが、以前、トイレに入って手を洗ったら落ちてしまった事があったからだろうか、一応二つ書いておいた。
「ランドセルの近くに用意しておけば、明日困らないんじゃないの?」
「うん。そうだね!」
それは昨夜のやりとり。
そして今朝、出発の少し前に彼は手を見たのか書道道具を思い出した。
用意し忘れていたらしく、ランドセルの近くにはない。
バスの時間が迫っている。
いつもギリギリの時間に起き、ギリギリの時間に出ていく次男。
「とりあえず、靴下はいて。取ってくるから。」と私は二階に駆け上がった。
何とかバスの時間に間に合い、やれやれと会社に向かった。
仕事が始まってすぐに父から電話があった。
「いつもバス停で、子供達を見てくれる近所の○○さんいるでしょ?
次男が『書道道具を忘れた!!』って困っていたんだって。」
「今、その人の旦那さんから電話もらったんだよ。届けられる?」
忘れたって?
私は10分前のやり取りを思い出した。
確かに私は2階から書道道具を持ってきて、次男に渡した。そう言えば、その後、彼はトイレに入ったよね?
それから、ランドセルを背負って・・・。
とりあえず、任せられるパートさんに仕事の手順を伝え、慌てて家に戻った。
しかし、次男の書道道具が、どこにも見当たらない。
心配性の次男。
忘れ物には特に敏感だ。
昨夜から自分なりの対策をとっていたんだろう。
それなのにバス停で忘れ物に気づき、慌てて近所のおばさんに伝えたのか?
ならばどうして家に書道道具がないのか?
もしかして、父が届けに行ったのか?
いや、それは100%ないかな。
私の頭の中でいろんな推察が浮かんでは消えた。
そして・・・思い出した。
あの時、次男は何かをどこかに突っ込んでいた。
私の目の端で捉えていたわずかな映像が蘇る。
突っ込んでいたものは書道道具だ。
そして突っ込んだ先はランドセル!!
・・・ということで、次男の忘れ物騒動は、忘れていないのに、入れたことを忘れた次男により、ただ、周りが振り回されただけに終わりました。
高学年になったとはいえ、声掛けはしようと心に決めました。
不安いっぱいで学校につき、ランドセルを開けた次男は当然、安堵したことでしょう。